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東京地方裁判所 平成7年(ワ)17999号 判決 1998年1月22日

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告ら各自に対し、それぞれ金三〇〇万円及び平成六年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  本件は、「伊勢丹スポーツクラブ」の会員であった原告らが、スポーツクラブの閉鎖によって、会員資格を喪失し、施設利用権を奪われる等の損害を受けたとして、被告らに対し、会員契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  被告株式会社伊勢丹・スポーツ・クラブ(以下「被告クラブ」という。)は、プール、テニスコート、ゴルフ練習場、スカッシュコート等各種スポーツ及びトレーニング施設の経営等を目的として、昭和四九年六月一〇日に設立され、昭和五〇年春から、東京都世田谷区<以下省略>所在の伊勢丹スポーツクラブ(以下「本件スポーツクラブ」という。)を管理運営していた。被告株式会社伊勢丹(以下「被告伊勢丹」という。)は、被告クラブの発行済株式のすべてを保有していた親会社である。

被告クラブは、平成六年一一月三〇日、本件スポーツクラブを閉鎖し、同日をもって会員との会員契約(以下「本件会員契約」という。)を解除した。被告クラブは、同年一二月一日、株主総会で会社の解散を決議し、平成七年三月二三日、清算を結了した。

2  原告らは、いずれも別紙1及び2の各会員契約一覧表<省略>中の入会年月日欄記載の日に被告クラブの会員となり、本件スポーツクラブの閉鎖当時、被告クラブの会員であった者である。

三  原告らの主張

1  本件会員契約

原告らはいずれも、被告伊勢丹の勧誘により、本件スポーツクラブが永続的に継続することを前提として、被告らとの間で本件会員契約を締結した。

2  債務不履行責任

本件会員契約は期間の定めのない継続的契約であり、契約関係を継続することを期待し難い重大な事由がない限り一方的解除は許されないところ、被告らは、何ら合理的な理由がないのに、強行的に本件スポーツクラブを閉鎖して、原告らが本件会員契約に基づき、本件スポーツクラブの施設を利用してそれぞれのスポーツ活動を楽しみ、会員活動をする権利及び会員として施設等を利用する権利を違法に侵害した。

被告伊勢丹は、被告クラブとともに、本件スポーツクラブの管理運営及び経営を行ってきたところ、本件会員契約の違法な解除に基づく債務不履行責任がある。

3  不法行為責任

仮に被告らの債務不履行責任が認められないとしても、被告らは、平成六年初めころ、共謀して本件スポーツクラブの閉鎖を計画し、原告らに何らの相談もなく一方的に閉鎖を強行して、原告らの利用権を侵害した不法行為責任がある。

4  損害

本件スポーツクラブの閉鎖により、原告らは、本件会員契約に基づく施設利用権を含む会員資格を喪失し、本件スポーツクラブにおいて、体力、健康増進の機会を奪われ、スポーツを通した人間関係を破壊された等の、金銭によって評価できない重大な損害が発生した。この損害は、各原告について、少なく見積もっても金三〇〇万円を下らない。

よって、被告らに対し、本件会員契約の債務不履行又は共同不法行為による損害賠償として、連帯して、原告ら各自に対して金三〇〇万円及びこれに対する本件スポーツクラブが閉鎖された日の翌日である平成六年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  争点

1  被告伊勢丹は本件会員契約の当事者か。

2  本件スポーツクラブの閉鎖が本件会員契約の債務不履行に当たるか。

3  本件スポーツクラブの閉鎖が被告らの共同不法行為に当たるか。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

原告らは、被告伊勢丹が被告クラブとともに本件会員契約の当事者である旨主張する。そして、本件スポーツクラブの開業の際に作成されたパンフレットに、当時の被告伊勢丹のA社長及び被告クラブのB代表取締役名で、本件スポーツクラブが「伊勢丹の創立八十八周年記念事業の一つであり、皆様のデパートとして御愛顧頂いている伊勢丹にふさわしいものである」旨記載されていること、問合せ先として被告伊勢丹の「得意先センター」、「外商部伊勢丹スポーツクラブ担当」等が記載されていること<証拠省略>、被告伊勢丹外商部の社員が、得意先に対して、本件スポーツクラブへの入会を勧誘したこと<証拠省略>、平成元年に被告伊勢丹発行の「伊勢丹カード」と提携した「伊勢丹スポーツクラブメンバーズカード」が発行され、本件スポーツクラブの月会費のほか、被告伊勢丹での買物等に利用できるようになったこと、平成元年八月から月会費の請求窓口が被告伊勢丹となったこと<証拠省略>が認められ、被告クラブと被告伊勢丹は、親子会社として密接な関係があったと言える。

しかしながら、被告クラブは、被告伊勢丹から独立した法人格を有する株式会社であること、本件スポーツクラブの会則及び細則(以下「本件会則」という。)によれば、被告クラブのみが本件会員契約の当事者として規定されていること、本件スポーツクラブの営業、会員に対する事務連絡、閉鎖に関する交渉や諸手続も、被告クラブが一貫して行っていること<証拠省略>に照らすと、本件会員契約は、原告らと被告クラブとの間で締結されたものと認めるほかない。したがって、原告らの被告伊勢丹に対する本件会員契約の債務不履行を理由とする損害賠償請求は失当である。

二  争点2について

1  本件会則<証拠省略>の中には、本件会員契約の存続期間や本件スポーツクラブの閉鎖による解除に関する定めはなく、本件会員契約は期間の定めのない継続的契約であると解される。

2(一)  被告らは、本件スポーツクラブの閉鎖による本件会員契約の解除は、被告クラブの経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少、本件スポーツクラブの建物及びスポーツ施設(以下「本件建物」という。)の老朽化、競合する新たなスポーツクラブが開設されたこと等による経営の行き詰まりのため、やむを得ず行ったものであり、本件会員契約の債務不履行には当たらない旨主張する。

(二)  <証拠省略>によれば、被告クラブの経営成績について、以下の事実が認められる。

被告クラブの平成元年度から五年間の売上高、営業損益、経常損益は、別紙3<省略>のとおりである。これによると、被告クラブの営業収支は毎期赤字であり、経常収支も平成五年三月期から赤字に転じている、そして、平成六年三月期には、経常損失が大幅に拡大し、資本金五〇〇万円に対して、累積損失が約七三〇〇万円に上った。また、会員数は、別紙3<省略>のとおり、平成五年三月期から大幅な減少が続き、平成五年度は、入会者一九名、退会者七七名、平成六年度は、入会者七名、退会者一〇五名と入会者減、退会者増の傾向が顕著となった。被告クラブの主な収入源は、会員の支払う入会申込金、入会預託金、月会費及びスイミングスクール教室料であったところ、財務諸表から見る限り、会員数の急激な減少とあいまって、被告クラブの経営状況は、平成五年ころから、急速に悪化していたということができる。

(三)  本件建物は、昭和五〇年の開設以来、大規模な改修が行われておらず、平成五年六月ころまでに、シャワーの湯温が低下したり、冷房が十分利かない等の不具合が生じ、給湯・暖房用のボイラー及び冷房用の冷凍機・空調機のオーバーホール、電源装置の取替え、分電盤の改修等基本的設備の改修が必要となっていた<証拠省略>。

(四)  平成四年一一月以降、被告クラブから約三キロ以内に相次いでスポーツクラブが開設された。本件スポーツクラブは、自家用車又は東急線の自由ヶ丘駅若しくは都立大学前駅からバスを利用しなければならないのに対し、新設されたスポーツクラブは、ほとんどが駅前に位置して交通の便が良く、プール、テニスコート、ゴルフ練習場、アスレチックジム等本件スポーツクラブとほぼ同一の規模と内容の施設を有していた。代表的な三つの新設スポーツクラブの個人正会員の入会金、預託金、月会費、利用料は、別紙4<省略>のとおりであり、被告クラブと比較すると、月会費はほぼ同額であるが、入会金が著しく低額で、かつ預託金が不要であるため、被告クラブに個人正会員として入会するためには一〇〇万円かかるのに対して、新設クラブは数万円で入会できるという差異があった<証拠省略>。

3(一)  一方、原告らは、被告クラブが、施設利用料や月会費の値上げ、新規の有料イベントの実施、駐車場の使用料の徴収等の増収策をはじめとする経営努力を怠ったことが経営の行き詰まりの原因である旨主張する。

しかしながら、被告クラブは、開設以来九回にわたり、本件会則を変更し、入会申込金、入会預託金、月会費及び施設利用料金の改定を行った。個人会員について見ると、開業時には、入会申込金七万五千円、入会預託金一七万五千円、月会費五千円であったものが、平成三年九月以降は入会申込金四〇万円、入会預託金六〇万円、月会費一万二千円に値上げされた。法人会員と家族会員の入会申込金、入会預託金及び月会費についても逐次値上げがなされた。また、平成二年一月からは、個人会員が利用頻度に合わせて選択できるように、月会費(当初一万円)のみ支払うフリー会員と月会費(当初八千円)に加えて、利用の都度施設利用料(一回四〇〇円)を支払うチャージ会員とに区分し、平日会員、平日年次特別会員(一年間限りの会員)、外国人会員の資格を設ける等、会員のニーズに合わせた多様な入会資格、料金体系を用意した。さらに、平成五年度中には、ゴルフ練習場利用料やスイミングスクール料金についても料金改定を行った。被告クラブは、平成四年ころ、駐車場使用料の徴収、新規有料イベントについても検討したが、具体的な増収の目処が立たないため、実施しなかった<証拠省略>。

(二)  被告クラブは、平成二年秋、約二億円をかけて、本件建物の空調施設、給湯・給水・排水施設、照明器具等の補修工事を行うとともに、スポーツ施設を改修した。具体的には、スカッシュをする会員が減少したことに伴い、スカッシュコートを一面減らし、これに代えてトレーニングジムを一室増設し、ランニングマシン等の機器を入れ、ガラス貼りのスタジオを造る等スポーツ施設を充実させるとともに、浴室、シャワールーム、パウダールーム、トイレ等の改装を行った。さらに、二階のレストランを改装するとともにラウンジをなくし、多目的小ホールや健康相談クリニックルームを新設する等のリモデルを行った<証拠省略>。

(三)  さらに、被告クラブは、平成四年四月以降、ダイレクトメール三〇〇〇部及びちらし五万部を配布して会員募集に努めた。また、正会員の削減による人件費の抑制、水道光熱費等の公共料金の節約等の経費の削減にも努めた<証拠省略>。

なお、原告らは、その他にも、財務諸表に基づき役員報酬等経費の削減が不十分であった等、被告クラブの経営努力が不十分であった旨主張しているが、いずれも被告クラブの経営行き詰まりとは直接関係がないと考えられる。

(四)  以上述べたところによると、被告クラブは、経営成績の維持、建直しのため、必要な経営努力を行っていたというべきである。

4(一)  原告らは、被告伊勢丹が、①被告クラブから、本件建物について高額の賃料を徴収したこと、②賃貸人として行うべき本件建物の改修工事を怠ったことも、被告クラブの経営行き詰まりの原因である旨主張する。

(二)  <証拠省略>によれば、本件建物は、被告伊勢丹が所有し、被告クラブに対して賃貸していたこと、その間の賃料の推移は、概ね以下のとおりであることが認められる。

昭和五三年度から昭和五七年度 金六一二〇万円

昭和五八年度 金六二〇〇万円

昭和五九年度から平成四年度 金六七〇八万円

平成五年度 金六九〇八万円

平成六年度 金七〇〇八万円

そして、被告伊勢丹は、昭和五九年度から平成四年度までの八年間賃料を据え置いていたが、その後、近隣の賃料水準とのバランス、地価税の導入等を考慮して値上げを行ったことが認められる<証拠省略>。原告らは、被告クラブの年間売上高が約三億円であるところ、右賃料は売上高に較べて高額に過ぎる旨主張するが、適正な賃料額は、近隣の地価や建物賃料、本件建物の価額や形状、従前の賃貸借の経緯等を総合して決まるべきものであり、本件では、本件建物の賃料額が、適正な賃料額と比較して高過ぎることを推認させる証拠はない。

(三)  原告らは、被告伊勢丹が本件建物の改修工事を行わなかったため、シャワーの湯温の低下、冷房が十分利かない等本件建物の利用環境を悪化させたことも経営の行き詰まりの原因である旨主張する。

しかし、被告伊勢丹は、本件建物の修繕管理費として毎年約一五〇〇万円を支出していたこと、平成四年にも本件建物の外装の改修、玄関ポーチの改修を行ったこと、平成二年秋、被告クラブが本件建物の給排水設備の一部やスポーツ施設のリモデルを行ったこと、被告伊勢丹は、平成五年六月ころ、本件建物の大規模な改修について検討したこと、その際、改修が必要な箇所は、ボイラー、冷凍機、空調機、電源装置、分電盤等の老朽化設備、プールの天井・底板、ゴルフ練習場の鉄骨等老朽化したスポーツ施設等本件建物全般にわたっていたこと、平成一四年までの今後一〇年間で改修費用として、合計三億一七四〇万円が見込まれたこと<証拠省略>、既に述べたとおり、平成三年ころから、近隣にスポーツクラブが相次いで新設された上、平成五年ころから、被告クラブの営業成績が急速に悪化し、会員数が大幅に減少していたことに照らすと、被告伊勢丹が本件建物の抜本的な改修工事に着手しなかったことも無理からぬものがあったというべきである。

5  被告クラブは、昭和五〇年に開設され、地域における会員制スポーツクラブの草分け的な存在である。原告らの多くが、当時四〇歳前後の社会的責任のある地位にあった者又はその家族で、開設から間もない時期に被告クラブの会員となった。被告クラブの会員の多くは、昭和五〇年当時で合計二五万円という高額の入会金や月会費を負担する等経済的にゆとりがあり、しかも、週に何度も本件スポーツクラブを利用できる恵まれた余暇を有していた。被告クラブでは会員相互の交流が活発であり、ゴルフ、スカッシュ、ジョギングを行う会員同士の自主的な同好会活動等を通じて、家族的まとまりを有していた。開設当初からのベテラン会員が多かったため、平成五年ころの会員の平均年齢は男女とも五二歳であり、会員の高齢化が進んでいた<証拠省略>。

ところが、高度経済成長を経て、余暇の充実、レジャーや健康志向の高まりといった変化を受けて、誰もが、いつでも手軽に安く利用することができるスポーツクラブが数多く開設されるようになった。平成四年ころには、会員制スポーツクラブ、企業による従業員の福利厚生用スポーツ施設、公共施設に付属するスポーツ施設等スポーツクラブ間の競争は激しさを増し、とりわけ、バブル経済の崩壊後は、既に述べたとおり、本件スポーツクラブの周辺地域でも、入会金が著しく低額、預託金も不要で、個人が手軽に入会することができるスポーツクラブが相次いで新設された<証拠省略>。

ここにおいて、被告クラブは、入会にかかる費用が極めて高額であること、既に開設から二〇年近く経過したこと、駅から遠く立地条件に恵まれなかったこと等のため、このようなスポーツクラブに対する社会のニーズの変化や近隣のスポーツクラブとの競争に対応することができず、会員の高齢化等のため退会者が増加する一方、新会員の獲得が極めて困難になった<証拠省略>。被告クラブの経営の行き詰まりの根本的な原因は、この点にあったと考えるべきである。

6  <証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、本件スポーツクラブの閉鎖に至る経緯は以下の通りであると認められる。

被告クラブのC社長は、平成六年一月ころ、本件スポーツクラブの閉鎖の方針を固め、被告伊勢丹と協議を始め、いったんは営業譲渡による営業の継続も検討したが実現せず、結局閉鎖の方針を固めた。被告クラブは、同年九月一四日ころ、「会員の皆様へ」と題する書面を全会員に送付し、同年一一月末日をもって、本件スポーツクラブを閉鎖する旨を通知した。閉鎖に反対する会員に対して、同年一〇月三〇日と一一月六日に、C社長が説明会を開催した。

被告クラブは、被告クラブ側の事情による閉鎖であることを考慮して、会員への謝罪措置として、入会預託金のほか、本件会則上返還義務のない入会申込金も返還することとし、原告X1に対し平成六年一二月八日、同X2に対し同年一一月二八日、同X3に対し同年一二月七日、同X4に対し同年一一月二五日、同X5に対し同年一二月一三日、同X6、同X7、同X8、同X9、同X10に対し、いずれも同年一二月八日、同X11に対し同年一二月六日、同X12に対し同年一二月二五日に、それぞれ入会申込金と入会預託金の全額を支払い、右原告らは、これを受領した。また、原告らのうち、入会申込金及び入会預託金全額の受領を拒絶した者については、平成七年二月二三日、それぞれ東京法務局へ供託した。これらの返還や供託に要した資金は、被告クラブが既に債務超過の状態であったため、被告伊勢丹が負担した。また、被告クラブは、平成六年一一月分の月会費を徴収せず、会員に無料で開放した。さらに、目黒区<以下省略>所在の三越フィットネスクラブへの入会を希望する会員については、被告クラブの紹介によって入会金が割り引かれる措置を講じた。

7  以上認定した事実、特に、本件スポーツクラブの閉鎖は、被告らの経営努力にもかかわらず、経営成績の悪化、会員数の減少、本件建物の老朽化、競合スポーツクラブの開設等により、被告クラブの経営の継続が困難となったために行われたこと、被告クラブは、開設以来約一九年間営業されてきたこと、被告クラブが、閉鎖について、会員に対し二か月以上前に通知するとともに、入会申込金の返還、一か月間の無料開放等相応の慰藉の措置を講じていることを総合すると、被告クラブの本件会員契約の解除は、やむを得ない事情によるものであり、本件会員契約の債務不履行とはいえないというべきである。

8  なお、原告らは、被告伊勢丹が被告クラブを開設した基本理念は、創立八八周年記念事業として、経済性の追求よりも企業の地域社会への還元という点に重点があったのであるから、被告伊勢丹は被告クラブの継続のため、いっそうの経営支援をおこなうべきであった、例えば被告クラブの平成五年度及び平成六年度の累積損失は、被告クラブが被告伊勢丹に支払う本件建物の賃料、業務委託費等親子会社間の勘定を連結決算して考えれば消去されるものであり、被告伊勢丹の支援があれば、被告クラブの経営の継続は十分可能であった旨主張する。

たしかに、本件スポーツクラブのパンフレットには、被告伊勢丹が「地域社会のかたがたのより高く、より豊かな暮らしのお役に立ちたく」、本件スポーツクラブを開設する旨が記載されている<証拠省略>。しかしながら、被告クラブは株式会社であって、公益法人や会員の出資による組合ではなく、営利事業として本件スポーツクラブを開設したこと、被告伊勢丹もバブル経済の崩壊後、消費の落ち込みや海外投資の失敗等のため、経営成績が悪化したこと<証拠省略>、別会社である以上、経費や収入をきちんと計上しなければ、税務上問題が生じることを考慮すると、被告伊勢丹が、本件スポーツクラブの閉鎖時点で、事業としての採算を度外視してまで、被告クラブの損失を甘受しなければならない理由はなかったというべきであり、原告らの主張は失当である。

9  以上によれば、原告らの被告クラブに対する本件会員契約の債務不履行に基づく請求は理由がない。

三  争点3について

争点2について判示したことを総合すれば、被告らによる本件スポーツクラブの閉鎖が、原告らに対する共同不法行為としての違法な権利侵害にも当たらないことは明らかである。したがって、この点に関する原告らの主張も理由がない。

(裁判官 齋藤啓昭)

<以下省略>

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